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店に行ってもコメが買えない! 日本の食糧危機はすぐそこ 気づいたときには後の祭り 輸入に依存し国内農家潰したツケ到来
2024年8月22日
https://www.chosyu-journal.jp/shakai/31495
コメが残りわずかとなっているスーパーの商品棚
過剰、過剰といわれてきたコメが突如、「足りない」と騒ぎになっている。今年の新米がほぼ出そろう10月までまだ2カ月近くあるが、6月末時点の民間在庫量は前年に比べて41万㌧少ない156万㌧と過去最低水準を記録しており、商品棚がほぼ空になったまま「いつ入荷するかわからない」というスーパーも出ている。流通関係者らはコメ確保に奔走しているが、「まったくない」という。品薄にともなって価格も上昇中だ。政府は「昨夏の猛暑による不作」を理由にしているが、根本的な要因は田んぼを潰し続け、農家の赤字を放置してきた結果、高齢化で離農が加速していることにある。さらに各地で毎年起こる災害がそれに拍車をかけている。だが、現状を踏まえてなお政府は、「需要は減少する」として来年度も生産量を増やさない姿勢を示している。「今年がもし不作なら来年はコメ騒動だ」という現場の危機感とは乖離した悠長さだ。
いびつな食料輸入依存体質への警告
西日本のある大手ディスカウントストアでは、コメの商品棚がほぼ空の状態が続いている。「現在、お米の原料不足により新米まで原料が保てない商品がございます」として、ほとんどの商品で「1家族1点まで」と販売制限をかけている。それでも5㌔袋から2㌔袋にいたるまで、ほとんどが売り切れ状態だ。1㌔700円近くする商品や、無洗米など少し高めの2㌔袋がわずかにあるだけ。この店舗では週に2回入荷する予定だが、入荷日に本当に商品が入ってくるかどうかは不明だという。
別の大手ディスカウントストアでは、入荷の見通しがなく、コメの販売はほぼなくなっている。コメのコーナーには、白米の2㌔袋が数袋残っているだけで、もち米や玄米などの売り場になっている。西日本で大手のスーパーの店頭でも並んでいる商品はごくわずか。空いた商品棚にパックご飯をずらりと並べていた。ある消費者は、コメを購入したくて店員に入荷時期を尋ねると、「注文しても入荷しない状態で、いつ回復するかわからない」という返答だったと話していた。このスーパーでは10㌔袋は取扱いが中止になっているという。
日頃の取引状況もあるのか、チェーンによっては西日本産米の5㌔袋が入荷されているところもあり、ばらつきはあるものの多くの店頭で品薄状態になっている。「お米の原料不足のため、供給がひっ迫しております」「欠品・品薄が発生しております」「供給状態が不安定なため、商品が入荷しない場合があります」など、各店舗のコメ売り場にはポップが並び、消費者にコメ不足を訴えている。
小・中学校はまだ夏休みで、家に子どもたちがいる分、いつも以上に食料が必要な時期。「今日はコメを買って帰ろうと思っていたが、2㌔を買ってもすぐになくなるし、どうしようか…」とわずかに残った商品の前で悩む家族連れや、「コメがない!!」と驚いてしばし立ち止まる家族連れの姿も見られる。
価格も上昇している。スーパーでいつも同じ銘柄を購入しているという女性によれば、以前は5㌔で1980円ほどだったものが2080円になり、2800円まで上がっていたという。別の男性も「いつも買う5㌔袋は1500円くらいだったのが、2700円になっている。“政治改革”などといっているが、まずみんなの生活を何とかしてほしい」と怒りを込めた。
新米の価格高騰は必至 流通業界も戦々恐々
コメ不足がニュースになり始めたのは5月以降だが、コメ流通業界では、今年に入ったころから不足が騒がれ始めていたという。
業界関係者は「すべての銘柄でコメがない。コシヒカリの新米が本格的に出始めるのがあと1カ月後くらいで、ヒノヒカリになると11月頃になる。コメがひっ迫しているから売上を上げるチャンスだが、売る物がない。主要なお得意さんの食堂やホテル、施設、病院などに納品する在庫を切らしてしまうと、取引を打ち切られてしまうので、スーパーや米穀店からの注文を半分くらい断り、新米が出そろって品不足が解消されるまでは在庫を温存するようにしている」と話した。
「今、在庫を持っている農家があれば業者は言い値で買いとる」というほど、現場では不足感が増している。しかしコメ不足を報じるニュースの最後には必ず政府の「ひっ迫していない」というコメントがついている。「ひっ迫していないから政府備蓄米は放出しない」という意味だ。あまりにも乖離した感覚に、現場からは「その情報はどこから得たのか?」「ということは、価格引き上げのためにだれかが持っているということなのか?」との声も上がっている。
こうしたなかで農家の元には「コメがないか」という問い合わせがあいついでいる。ある農家は「ここ最近、知人から連絡が入ってくるのは、すべて“コメはないか”という話ばかりだ。合計すると50袋(1袋30㌔)近くになる。直売をしているので保管している量は決まっている。この時期になるとないものはない。これでまた、緊急輸入のような話にならないかと心配だ」と話した。
全国で最初に出回る宮崎県産の新米が盆前に出始めたが、その時点で1俵(60㌔)8000円値上がりしていたという。宮崎県産の新米は1俵2万4000~2万5000円で取引されており、山口県産の新米も1俵2万円をこえると見込まれている。
業界関係者の一人は、「新米がすべて出そろう10月になれば物がない状態は一応解消されるが、新米は10㌔当り1000円以上上がる見込みだ。これからはスーパーの店頭でも10㌔5000円が当たり前の世界になって、特売で2980円などはなくなると見ている」と話した。
米穀店の店主も「銘柄などにこだわっていないので、今のところなんとか注文分は入荷しているが、宮崎の新米は高すぎて仕入れていない。新米は2万円前後の取引になりそうだという。コメ屋としては新米が出てきた後が怖い。値上げするしかないが、お客さんにどれだけ価格転嫁できるだろうかと不安だ」と話した。
米国産米への置換えも 増産せず輸入増やす政府
この状況にあっても政府には生産強化に舵を切る姿勢も、政府備蓄を強化する姿勢もみられない。
それどころか昨年度の補正予算では「田んぼを潰せば手切れ金を出す」(1回限り)という政策を打ち出し、それに750億円を計上している。まだまだ田んぼを潰すつもりだ。そのなかで見逃せない動きとして指摘されているのが、国産米の不足に乗じてカリフォルニア米への置き換えが進んでいることだ。
コメ流通関係者は「大手の総菜企業がカリフォルニア米を使い始めたということだ。円安なので価格はあまり変わらないが、味自体は悪くない。大手が使い始めれば追随してそちらに流れていく企業も出てくるのではないか」と指摘した。米菓(あられ・せんべい)の原料不足で業界団体がMA(ミニマム・アクセス)米を低価格で安定的に供給するよう要望する動きもあり、米国産うるち米の成約状況は、23年4~6月の103㌧から、24年4~6月は2839㌧へと28倍も拡大している。相当量がMA米に切り替わっていることを示している。
それはすでにスーパーの店頭にも流入している。70代の女性は「先日、コメを探して数店舗回ったが、国産は5㌔3000円をこえる物ばかりなので手が出ず、あるスーパーでカリフォルニア米が4㌔1680円で売っているのを見つけて2袋買った」と話した。4㌔1680円ということは、5㌔に換算すると2100円。国産米が5㌔で3000円前後の水準になっているなかで割安だ。近年、米国産米の輸入価格は国産米より高値になっている。それが国産より低価格で販売されているのはなぜか? である。
農業関係者の一人は、「これまで買い叩かれてきた国産米の価格水準が上がることは、赤字で農業を続けてきた農家にとって喜ぶべきことだが、もし輸入米がそれにとってかわれば、ますます国内農業が疲弊していく」と警戒感を語っていた。
そもそも、「日本人のコメ離れ」「過剰在庫」を騒いで国内の作付け面積を減らしながら、MA米77万㌧(玄米換算)を毎年輸入し続けてきたのが日本政府だ。本来は低関税を適用して、輸出機会を保障するというだけの約束であり、他国は全量買い入れなどしていないが、アメリカの要求に従って日本政府だけが「最低輸入義務」だといい張って全量買い続けている。そして、入札にかけてもだれも買わないので飼料用に回し、差損を埋めるために毎年税金を700億円も投入してきた。
1993年の凶作を契機に、国内増産に向かうのではなく輸入が自由化されていった経験を踏まえて、この動きへの警戒感は高まっている。
農業経営体20年で半減 コメ不足の要因とは
稲刈りをする農家。農機具から肥料まで生産資材が高騰しても価格転嫁できず、高齢化も加わって各地で稲作農家の戸数は減少している。
今回のコメ不足の原因として、昨夏の猛暑でコメどころの新潟や福島をはじめ東北・北陸地方で高温障害が発生し、小粒になるなど収量・品質が低下したことがあげられている。
業界関係者によると、とくに業務用に回る価格帯の安い「中米」の量が少なかったという。その一方でコロナ禍が明けて訪日外国人が押し寄せており、東京や大阪などの都市部の外食産業でインバウンド需要が増大したこと、すべての食品が値上がりするなかで比較的上昇幅が緩やかだったコメを食べる人が日本国内で増えていることも要因の一つとされている。令和5年産だけを見れば、主食用生産量661万㌧に対して需要量は702万㌧。41万㌧足りなかったことになる。
しかし、一番の原因は減反を続けてきて、もともとの作付けが少ないことであり、加えて農家の高齢化で年々、生産者が減少していること、というのはコメにかかわる人たちの共通認識だ。
今になって「不作だった」と猛暑のせいにしているが、令和5(2023)年産米の作況指数は101で平年並みだった。猛暑の影響があったにせよ、とりたてて不作だったわけではない。ただ、農水省が人口減少などを理由に、主食用米から飼料用米などに作付け転換を進めており、そのせいで23年産の主食用米の収穫量が過去最低レベルだったのは確かだ。生産縮小策に加え高齢化で生産量が急減していくなかで、わずかな需要の増加、というよりコロナ以前の規模に需要が戻ったことで混乱が生じたといえる。
70年代から「コメが過剰だ」「米価を安定させるためだ」といって減反政策を続け、2018年に減反政策を終了した後も、主食用米から他の作物への転作を推進し続けており、水稲の作付け面積は1961年の約313万㌶から、2023年には約153万㌶と、60年前と比べると2分の1まで減少している【グラフ①参照】。
農業従事者の平均年齢はすでに68・7歳(2023年)。農業経営体数は2005年の約200万経営体から、2024年には約88万経営体へと半分以下にまで減少【グラフ②参照】しており、生産基盤崩壊のスピードが加速している。
主食のコメは食料安全保障の要であり、戦後すぐには、食管法の下で政府が農家から生産費に見合う価格で買い上げ、消費者には安い価格で販売するという仕組みをとっていた。その当時を知る農家に聞くと「1俵1万8000円から2万円だった」という。
しかし、93年の「冷夏による凶作」を理由にした韓国やタイからの緊急輸入、同年のガット・ウルグアイラウンドでのコメ輸入自由化をへて、95年に食管法を廃止し、米価に市場原理を導入した結果、米価の下落が続き、ひどいときには1俵8000円程度という年も発生し、そのたびに農家が廃業していった。
「農業は手厚く保護され過ぎている」という言説とともに、長年にわたる農家の苦境が放置され続けてきたところに、コロナ禍やウクライナ戦争という世界的な状況の変化が襲い、農業の実態はいよいよ厳しくなっている。電気代、肥料・農薬、運賃などすべてが値上がりしており、稲作でみると、2020年では稲作農家が1年働いて手元に残る所得は1戸平均で17・9万円、時給は181円だった。それが2021年、22年は所得は1万円、時給10円というところまで来ている。国民の命の根幹を支える主食でありながら、政府による価格保障もないなかで、多くの農家は赤字状態でも代々受け継がれてきた農地を荒らさないために、なんとか踏ん張っている状態だ。
今年、コメの作付けをやめた高齢農家も多く、「地域内で元気な農家が一手に引き受けているが、それも70~80代。1人で請け負うには限界の面積だ。あと1人でもやめたら山に返すほかない」「今、地域内の農家数を考えると、あと五年もすれば数人しか残らないのが目に見えている。コメの自給率を維持し続けることができるとは思えない」といった声が各地で語られている。
それに追い打ちをかけているのが、毎年起こる豪雨や台風、地震による災害だ。農地の災害復旧は、あくまで私有財産ということで、補助は出るが自己負担が発生するため、「今からお金をかけてまで農業を続けられない」と高齢農家が農業をやめていく契機になっている。災害復旧に時間がかかり過ぎ、1年後にようやく本格的な復旧工事が始まるという状態のなかで諦める農家も出ている。
ある農家は、「毎年どこかで災害が起こるが、復旧にお金と時間がかかる問題はどこも同じではないか。もともと農業は赤字で、最近は肥料や農薬が値上がりし、食管法の時代と比べると感覚的に倍近くになっていると思う。それなのにコメ代は1俵1万2000~1万3000円と昔より低い。そんな状態で続けてきた高齢農家が今から資金を投じてまで復旧できない。今年はコメどころの山形県などが被災しているが、こうして全国で農家がやめていくのを放置すれば、いざというとき本当に食べる物がない日本になるのではないか」と語っている。
世界的には食料危機が現実的なものになっている。中国などは有事に備えて政府備蓄を増大すべく世界の穀物を買い占めている。この深刻な状況のなかで、農家への支援策は出さずに潰れるに任せ、有事には罰則付きで強制的に増産させるとしているが、そのころには生産する農家がいないのが現実だ。
今回のコメ不足は、現在の日本がわずかな変化で食料の供給が滞る危うい状態にあることを改めて浮き彫りにするものとなっている。
https://www.chosyu-journal.jp/shakai/31495
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2024/08/23 (Fri) 06:28:44
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米不足の根本原因は猛暑や地震ではない!抜本的に見直すべき日本の農政【朝香豊の日本再興チャンネル】
2024/08/22
https://www.youtube.com/watch?v=pDwVwTr4mE4
【討論】日本人の命と安全 食糧とエネルギー危機[桜R6/7/22]
https://www.youtube.com/watch?v=iEmWgsKL2CY
パネリスト:
石井孝明(ジャーナリスト)
柴田明夫(資源・食糧問題研究所 代表)
鈴木宣弘(東京大学大学院教授)※スカイプ出演
竹村公太郎(日本水フォーラム代表理事・事務局長)
藤和彦(経済産業研究所 上席研究員)
山田正彦(元農林水産大臣・弁護士)
司会:水島総
農業の余命はあと5年?!トンデモナイ中身!食料・農業・農村基本法の改正法|原口一博
ChGrandStrategy 2024/07/16
https://www.youtube.com/watch?v=6IchwTQKjsc
ヤバすぎる日本…「農家は自分たちで稼げ!国は何もしません」|室伏謙一
ChGrandStrategy 2024/08/16
https://www.youtube.com/watch?v=l-a81POF44s
鈴木宣弘 _ 迫る食料危機! 私たちの食と農を守るためにできること
https://a777777.bbs.fc2bbs.net/?act=reply&tid=14062214
ダボス会議で進む日本の食の危機【東京大学大学院 農学生命科学研究科教授 鈴木宣弘氏①】
【公式】吉野敏明の政経医チャンネル〜日本の病を治す〜 2024/04/07
https://www.youtube.com/watch?v=saLZz5Ds1N0
戦後から失われた?日本の食問題【東京大学大学院 農学生命科学研究科教授 鈴木宣弘氏②】
【公式】吉野敏明の政経医チャンネル〜日本の病を治す〜 2024/04/11
https://www.youtube.com/watch?v=TjRNK1-rjwM
戦後仕組まれた?日本の食料自給率の低下【東京大学大学院 農学生命科学研究科教授 鈴木宣弘氏③】
【公式】吉野敏明の政経医チャンネル〜日本の病を治す〜 2024/04/13
https://www.youtube.com/watch?v=5HgunY1Sv-4
国際基準の食の安全とは?日本の食はおかしい【東京大学大学院 農学生命科学研究科教授 鈴木宣弘氏④】
【公式】吉野敏明の政経医チャンネル〜日本の病を治す〜 2024/04/14
https://www.youtube.com/watch?v=FkopkPjowYs
吉野敏明 _ 戦後アメリカに強制された洋風の食事が日本人の病気の原因
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https://a777777.bbs.fc2bbs.net/?act=reply&tid=16855435
政府が進める昆虫食の危険性|吉野敏明
2023/05/26
https://www.youtube.com/watch?v=2j7xTMcCpPg
日本の食料危機を救うのはコオロギだ
https://a777777.bbs.fc2bbs.net/?act=reply&tid=14049790
EU、食料価格高騰の最中、代替食品としてトノサマバッタを推奨
https://a777777.bbs.fc2bbs.net/?act=reply&tid=14036783
21世紀はゴキブリのから揚げがご馳走になる時代
http://www.asyura2.com/13/lunchbreak53/msg/182.html
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2024/08/29 (Thu) 05:37:13
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このままでは「令和の米騒動」が繰り返される…コメ不足を放置して利権を守る「農水省とJA農協」の大問題
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https://news.yahoo.co.jp/articles/a1fa8a3e4bbe581a022fa9d4eefdd1573deb1127?page=1
コメが不足している原因は何か。キヤノングローバル戦略研究所の山下一仁研究主幹は「猛暑の影響やインバウンド消費の増加といわれているが、根本原因は減反によるコメの生産量減少だ。高価格を維持するために農水省はコメの供給量を減らし続けており、わずかな需要増でも不足する事態になっている」という――。
【写真】政府の備蓄米はこんなにある。福島県内にある倉庫内の様子(2024年4月)
https://president.jp/articles/photo/85486?pn=3&cx_referrertype=yahoo&yhref=20240828-00085486-president-pol
■コメ不足の根本原因は「減反政策」
コメの値段が上がっている。棚からコメが消えたスーパーもある。それなのに、農林水産省は「コメの需給は逼迫していない」という。コメ不足について、マスメディアで言われている原因は本質的なものだろうか? また、農林水産省はなぜコメ不足を否定するのだろうか?
コメ不足の原因として二つのことが言われている。一つは、供給が不足、もう一つは需要の増加である。
コメの流通業界は、2023年産米の作況指数は平年作以上だったが、猛暑の影響で品質が低下し一等米の比率が減少したと説明している。一等とか二等とかいうコメの等級は、一定量のコメの中に、粒のそろったコメ(整粒)の比率が高いか低いか、白濁した粒など被害を受けた粒の比率がどのくらいなのか、などで決定される。
イネの穂が出た後に高温が続くと、コメの内部に亀裂が生じてしまう“胴割れ粒”やでんぷんの形成が悪く白く濁ったように見える“乳白粒“などが生じる。胴割れ粒は精米にする際に割れてしまう。この割合が多いと精米歩留まりが低下し、商品としての評価が下がる。コメの流通業界の主張をわかりやすく説明すると、「見た目の悪い割れたコメや被害のあったコメなどを流通段階で取り除いたので、消費者への供給量が少なくなった」というのだろう。
指摘されないファクトがある。
2023年産米の作況指数101だった。だが、これはコメの生産量が前年より多かったことを意味しない。作況指数というのは一定の面積当たりの収量(“単収”という)の良し悪しだからである。コメの作付面積が減少していれば、作況指数100でも、生産量は前年を下回る。
JA農協と農林水産省は、コメの需要が毎年10万トンずつ減少するという前提で減反(生産調整)=作付面積の減少を進めてきた。前年比10万トン減少という前提でコメの作付面積を減らしていれば、作況指数が前年並みの100でも、昨年の9月から今年の8月までに供給される作年(2023年)産のコメの量は前年(2022年)産に比べ10万トン少なくなる。
現に、作況指数101にもかかわらず、2023年産のコメ生産量は前年の670万トンから9万トン減少した。猛暑による影響を云々する前に、2023年産のコメ供給量は減反で減少していたのである。
■わずかな需要増で「コメ不足」になった
需要の増加として挙げられているのは、インバウンドによるコメの消費増である。
しかし、毎月300万人の旅行者が日本に7日間滞在して日本人並みにコメを食べたとしても、消費量の0.5%増に過ぎない。ほかにも、「国際的な小麦価格の高騰でパンの値段が上昇し、相対的に安くなったコメの消費が増加した」とか、「南海トラフ地震への恐怖から消費者がコメの備蓄のため買いに走っているのだ」とかという説明が行われている。
確かに、最近のコメ不足がこれらの要素によって引き起こされたことは事実だろう。しかし、これらは、コメの全体需給の大きな部分を占めるものではない。足しあげても1割にもならない。問題は、こうしたわずかな生産や消費の変動でコメが足らなくなるほど、生産量が減らされていることである。
■農作物は不作のほうが売上高は増加する
JA農協と農林水産省は、なぜ、ここまでコメの生産量を減らしたのか。
食料、なかでも必需品であるコメの「商品」としての特徴がある。胃袋は一定なので、毎日の消費量に限界がある。テレビの価格が半分になると、もう一台買おうという気になるかもしれない。しかし、コメの値段が半分になったからといって、コメを倍食べようという人はいない。コメの値段が高くても低くても消費量はそれほど変わらない。
消費量が大きく動かないので、生産量が増え、それを市場でさばこうとすると、価格を大幅に下げなければならない。“豊作貧乏”と言われる現象である。逆に、長雨などで不作になると、一定量は食べなければならないので、価格は高騰する。不作になると売上高は増加する。食料需要の特色から、供給がわずかに増えたり減ったりするだけで、価格は大きく変動する。
この食料についての経済学を利用したのが、JA農協と農林水産省が推進してきたコメの減反政策である。減反とは農家に補助金を与えてコメの供給を減らして米価を上げるものだ。需要の特性から、わずかな供給の減少でも米価や売り上げを大きく上げることができる。
実際に、減反は水田面積の4割に及んでいる。
また、減反は生産を抑える政策なので、コメの面積当たり収量(単収)を増加させる品種改良は、研究者にとってはタブーになった。単収とは生産性に他ならない。今では、減反開始時に日本と同じ水準だったカリフォルニアのコメ単収は、日本の1.6倍、情けないことに、1960年頃は日本の半分しかなかった中国に追い抜かれてしまっている。
水田面積全てにカリフォルニア米ほどの単収のコメを作付けすれば、長期的には1700万~1900万トンのコメを生産することができる。単収が増やせない短期でも、900万トン程度のコメは生産できる。国内だけでこれを処理しようとすると、米価は暴落する。このため50年以上にわたる減反政策でコメ生産を減少させ、米価を維持してきた。現在、JA農協と農林水産省は、主食用のコメの生産量を650万トン程度に抑制することを目標にしている。
■JA農協発展のための減反政策
減反はJA農協発展の基礎である。
米価を高く支持したので、コストの高い零細な兼業農家が滞留した。かれらは農業所得の4倍以上に上る兼業収入(サラリーマン収入)をJAバンクに預金した。また、農業に関心を失ったこれらの農家が農地を宅地等に転用・売却して得た膨大な利益もJAバンクに預金され、JAは預金量100兆円を超すメガバンクに発展した。減反で米価を上げて兼業農家を維持したこととJAが銀行業と他の事業を兼業できる日本で唯一の法人であることとが、絶妙に絡み合って、JAの発展をもたらした。
「米価が下がると農家が困るのではないか」「コメ生産が維持できなくなるのではないか」という指摘がなされる。しかし、コメ生産を維持するために、コメ生産を減少させる(減反である)というのは矛盾していないか。
また、アメリカやEUは農家の所得を保護するために、かなり前から高い価格ではなく直接支払いという政府からの交付金に転換している。よく私は「欧米では農業保護のやり方を高い価格ではなく財政からの直接支払いという方法に転換したのに、なぜ日本ではできないのですか?」という質問を受ける。農家にとっては、価格でも直接支払いでも、収入には変わらない。なぜ、日本の農政は価格に固執するのか? それは、欧米になくて、日本にあるものがあるからである。JA農協である。
アメリカにもEUにも農家の利益を代弁する政治団体はある。しかし、これらの団体とJA農協が決定的に違うのは、JA農協それ自体が金融業などの経済活動も行っていることである。このような組織に政治活動を行わせれば、農家の利益より自らの経済活動の利益を実現しようとする。その手段として使われたのが、高米価・減反政策である。
米価を下げても主業農家に直接支払いをすれば、主業農家だけでなくこれに農地を貸して地代収入を得る兼業農家も利益を得る。しかし、直接支払いが交付されない農協にとっては、価格低下で販売手数料収入は減少するし、零細兼業農家が農業をやめて組合員でなくなれば、JAバンクの預金も減少する。農協にとっては良いことがないのだ。
■農林水産省は政府備蓄米の放出を拒否
減反政策によって、コメの全農と卸売業者との取引価格(相対取引価格)は、60キログラムあたり、2021年産1万2804円から、2022年産1万3844円、2023年産1万5306円(7月は1万5626円)となり、この2年間で20%も上昇した。農林水産省としてはシナリオ通り米価を上昇させて満足しているところだろう。
去る7月19日の記者会見で坂本農林水産大臣は、昨年(2023)産米の相対取引価格について、「令和5年産米の6月の相対取引価格は、最近の中では平成24年産の同時期の1万6293円に次ぐ価格となっています」と述べ、卸売業者が全農に支払う価格が10年ぶりの高水準になっていることを認めた。
さらに、坂本大臣は、今年(2024)産の早期米(他の産地よりも早く出荷されるコメ、早場米ともいう。)の概算金(JA農協が農家に支払う仮払金)の価格について、「令和6年産の早期米の概算金の大幅上昇について、鹿児島県産コシヒカリの7月末までの概算金が、60kg当たり1万9200円など、前年産に比べ6000円高い価格で決定されていることは報道により承知しています」と述べている。31%の価格上昇である。
それでも坂本大臣は、「私自身は、需給が引き締まっているということで、特段、これによってさまざまな対応をするというような状況にはないと思っています。」と述べているのである。米価の上昇はJA農協と農林水産省にとって成果以外の何物でもない。コメが不足したからといって、備蓄米を放出すれば、供給が増えて米価は低下する。大阪府の吉村洋文知事の備蓄米放出という要請を大臣は拒否した。
■減反廃止はフェイクニュース
なお、減反は廃止されたのではないかとよく質問される。結論から言うと、これは安倍晋三元首相のフェイクニュースである。
2014年農林水産省、JA農協、自民党農林族によって減反政策の見直しが行われた。国から都道府県等を通じて生産者まで通知してきたコメの生産目標数量を廃止するだけで、減反政策のコアである補助金は逆に拡充した。
この政策変更にほとんど関与しなかったのに、安倍首相は政権浮揚のため「40年間誰もできなかった減反廃止を行う」と大見栄を張った。この時、減反を見直した自民党農林族幹部も、大臣をはじめ農林水産省の担当者も、「減反の廃止ではない」と明白に否定していた。面白いことに、2007年に安倍内閣は全く同じ見直しをして撤回していたのである。しかし、2007年当時だれも減反廃止とは言わなかった。廃止ではなかったからだ。
減反廃止が本当なら、米価は暴落するはずだ。農業界は蜂の巣をつついたような騒ぎになり、永田町はムシロバタで埋め尽くされる。もちろん、そんなことは起きなかった。
後に安倍首相は、私の論文を基に国会の予算委員会で減反廃止を否定する農林族議員との主張の違いを指摘され、「違いはない。私はわかりやすく言っただけ」と発言を撤回した。これは、NHKテレビで中継された。
■本当にコメ不足は解消されるのか
農林水産大臣は、8月2日の記者会見で、「収穫の早い産地は、今月には新米が出回り始め、9月からは主産地の出荷も始まります。消費者の皆様方におかれましては、安心していただき、普段どおりにお米をお買い求めいただきたいと思います」と述べている。9月になれば新米(2024産米)が供給されるので、コメ不足は解消されるという報道も見られる。
しかし、そうだろうか?
まず、需給のファクツを押さえておこう。基準年を1昨年の9月から昨年の8月までとして、これに対する生産と需要の変化を見よう。
既に述べたように、昨年の9月から今年の8月までの期間の供給主体となる作年(2023年)産のコメは減反により前年(2022年)産より9万トン少なかった。これに猛暑による精米歩留まりの減少が20万トンであったとすると、供給量は前年に対し29万トン少なくなる。消費について農林水産省は、インバウンド等で11万トン増加しているとしている。以上から、コメの不足量は40万トンとなる(これは農林水産省が公表している民間在庫量の減少41万トンと符合する)。これを今年産の早期米等で早食いすれば、40万トンの不足は次の期(今年の9月から来年の8月まで)に持ち越されることになる。
■再来年も52万トン不足する
では、次の期のコメの需給はどうなのだろうか?
この期間の供給の主体となる今年産の供給量もコメの需要が毎年10万トンずつ減少するという前提で減反しているとすれば、基準年に供給された2022年産(670万トン)に比べ20万トン少なくなるはずである。しかし、根拠は明らかではないが、農林水産省は669万トンになるという見通しを公表している。農林水産省の見通しが正しいとすれば、基準年に比べ供給量は1万トンの減少となる。
インバウンドの需要が今年と同様であるとしても、基準年比では11万トン増である。つまり今年産米が農林水産省の見通し通りだったとしても、基準年より12万トンの不足(減反を予定通り行っているとすれば31万トンの不足)がある。これに今年産米を先(早)食いした40万トンの不足が加わる。減反を考慮しなくても次の期の不足は52万トンとなる。
■猛暑の影響でさらに不足が拡大する
さらに、今年産のコメが猛暑の影響を受けるかどうかは、これからわかる。胴割れ米等が起きるのは穂が出てから10日間に高温にさらされていたかどうかである。今年も昨年並みの高温だった。また、台風の影響により、イネの倒伏や日照不足による不十分な登熟が起きる可能性がある。今年も昨年と同様の被害を受けているとすれば、不足は72万トンとなる。一等米の比率は年々低下しているので、これでは済まないかもしれない。
この不足分を来年産から早食いするとすれば、その次の期に不足は持ち越される。永遠に不足が続く。
■コメ不足を解消するには「減反廃止」しかない
減反を止めれば、この問題は解消できる。
1700万トン生産して1000万トン輸出していれば、国内の需給が増減したとしても輸出量を調整すればよいだけである。国内でコメ不足は起きない。平成のコメ騒動は冷夏が原因と言われているが、根本的な原因は減反である。
当時の潜在的な生産量1400万トンを減反で1000万トンに減らしていた。それが不作で783万トンに減少した。しかし、通常年に1400万トン生産して400万トン輸出していれば、冷夏でも1000万トンの生産・消費は可能だった。
コメの輸出が増えている。今ではカリフォルニア米との価格差はほとんどなくなり、日本米の方が安くなる時も生じている。減反を廃止すれば価格はさらに低下し、輸出は増える。国内の消費以上に生産して輸出すれば、その作物の食料自給率は100%を超える。
上記の場合、コメの自給率は243%となり、全体の食料自給率は60%以上に上がる。最も効果的な食料安全保障政策は、減反廃止によるコメの増産と輸出である。平時にはコメを輸出し、危機時には輸出に回していたコメを食べるのである。平時の輸出は、財政負担の必要がない無償の備蓄の役割を果たす。
しかし、減反は廃止できない。農林水産省が目を向けるのはJA農協であって国民ではないからだ。コメ不足を解消する最善の政策は農林水産省の廃止ではないか。
https://news.yahoo.co.jp/articles/a1fa8a3e4bbe581a022fa9d4eefdd1573deb1127?page=5
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4:777
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2024/08/29 (Thu) 17:16:52
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令和のコメ騒動と農協の闇
大西 つねき
https://www.youtube.com/watch?v=48MRSlhwBOI
お米の価格が高騰していますが、そもそも何でこんなことになるのか、構造的な話をしてみます。
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5:777
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2024/08/31 (Sat) 15:23:33
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元金融マンがコメ農家に!/日本のコメ農業はなぜ衰退したか?
もぎせかチャンネル 2024/08/30
https://www.youtube.com/watch?v=LtDWJa96xR8
NPO法人「見沼の里」(埼玉県さいたま市)
https://minumanosato.com
会員になると、有機米作りを応援できます。政府が守らないなら、国民が守りましょう!
【訂正】
23:23 テロップが「見沼の郷」になっていますが、正しくは「見沼の里」です。
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6:777
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2024/09/07 (Sat) 18:15:31
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9/7 ライブ!兵庫県知事&米不足の裏話
髙橋洋一チャンネル
https://www.youtube.com/watch?v=Je-VCingjHg
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7:777
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2024/09/08 (Sun) 08:06:13
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「令和の米騒動」その真相...「不作のほうが売上高が増加する」農水省とJAの利益優先で国民は置き去りに
2024年9月6日
山下 一仁 (キヤノングローバル戦略研究所研究主幹) *PRESIDENT Onlineからの転載
https://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2024/09/ja.php
<コメが不足している原因は何か? キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の山下一仁は「根本原因は減反によるコメの生産量減少」と語る>
コメが不足している原因は何か。
キヤノングローバル戦略研究所の山下一仁研究主幹は「猛暑の影響やインバウンド消費の増加といわれているが、根本原因は減反によるコメの生産量減少だ。高価格を維持するために農水省はコメの供給量を減らし続けており、わずかな需要増でも不足する事態になっている」という――。
【コメ不足の根本原因は「減反政策」】
コメの値段が上がっている。棚からコメが消えたスーパーもある。それなのに、農林水産省は「コメの需給は逼迫していない」という。コメ不足について、マスメディアで言われている原因は本質的なものだろうか? また、農林水産省はなぜコメ不足を否定するのだろうか?
コメ不足の原因として二つのことが言われている。一つは、供給が不足、もう一つは需要の増加である。
コメの流通業界は、2023年産米の作況指数は平年作以上だったが、猛暑の影響で品質が低下し一等米の比率が減少したと説明している。一等とか二等とかいうコメの等級は、一定量のコメの中に、粒のそろったコメ(整粒)の比率が高いか低いか、白濁した粒など被害を受けた粒の比率がどのくらいなのか、などで決定される。
イネの穂が出た後に高温が続くと、コメの内部に亀裂が生じてしまう"胴割れ粒"やでんぷんの形成が悪く白く濁ったように見える"乳白粒"などが生じる。
胴割れ粒は精米にする際に割れてしまう。この割合が多いと精米歩留まりが低下し、商品としての評価が下がる。コメの流通業界の主張をわかりやすく説明すると、「見た目の悪い割れたコメや被害のあったコメなどを流通段階で取り除いたので、消費者への供給量が少なくなった」というのだろう。
指摘されないファクトがある。
2023年産米の作況指数101だった。だが、これはコメの生産量が前年より多かったことを意味しない。作況指数というのは一定の面積当たりの収量("単収"という)の良し悪しだからである。コメの作付面積が減少していれば、作況指数100でも、生産量は前年を下回る。
JA農協と農林水産省は、コメの需要が毎年10万トンずつ減少するという前提で減反(生産調整)=作付面積の減少を進めてきた。前年比10万トン減少という前提でコメの作付面積を減らしていれば、作況指数が前年並みの100でも、昨年の9月から今年の8月までに供給される作年(2023年)産のコメの量は前年(2022年)産に比べ10万トン少なくなる。
現に、作況指数101にもかかわらず、2023年産のコメ生産量は前年の670万トンから9万トン減少した。猛暑による影響を云々する前に、2023年産のコメ供給量は減反で減少していたのである。
【わずかな需要増で「コメ不足」になった】
需要の増加として挙げられているのは、インバウンドによるコメの消費増である。
しかし、毎月300万人の旅行者が日本に7日間滞在して日本人並みにコメを食べたとしても、消費量の0.5%増に過ぎない。
ほかにも、「国際的な小麦価格の高騰でパンの値段が上昇し、相対的に安くなったコメの消費が増加した」とか、「南海トラフ地震への恐怖から消費者がコメの備蓄のため買いに走っているのだ」とかという説明が行われている。
確かに、最近のコメ不足がこれらの要素によって引き起こされたことは事実だろう。
しかし、これらは、コメの全体需給の大きな部分を占めるものではない。足しあげても1割にもならない。問題は、こうしたわずかな生産や消費の変動でコメが足らなくなるほど、生産量が減らされていることである。
【農作物は不作のほうが売上高は増加する】
JA農協と農林水産省は、なぜ、ここまでコメの生産量を減らしたのか。
食料、なかでも必需品であるコメの「商品」としての特徴がある。
胃袋は一定なので、毎日の消費量に限界がある。テレビの価格が半分になると、もう一台買おうという気になるかもしれない。しかし、コメの値段が半分になったからといって、コメを倍食べようという人はいない。コメの値段が高くても低くても消費量はそれほど変わらない。
消費量が大きく動かないので、生産量が増え、それを市場でさばこうとすると、価格を大幅に下げなければならない。
豊作貧乏と言われる現象である。逆に、長雨などで不作になると、一定量は食べなければならないので、価格は高騰する。不作になると売上高は増加する。食料需要の特色から、供給がわずかに増えたり減ったりするだけで、価格は大きく変動する。
この食料についての経済学を利用したのが、JA農協と農林水産省が推進してきたコメの減反政策である。減反とは農家に補助金を与えてコメの供給を減らして米価を上げるものだ。需要の特性から、わずかな供給の減少でも米価や売り上げを大きく上げることができる。
実際に、減反は水田面積の4割に及んでいる。
また、減反は生産を抑える政策なので、コメの面積当たり収量(単収)を増加させる品種改良は、研究者にとってはタブーになった。単収とは生産性に他ならない。今では、減反開始時に日本と同じ水準だったカリフォルニアのコメ単収は、日本の1.6倍、情けないことに、1960年頃は日本の半分しかなかった中国に追い抜かれてしまっている。
水田面積全てにカリフォルニア米ほどの単収のコメを作付けすれば、長期的には1700万~1900万トンのコメを生産することができる。
単収が増やせない短期でも、900万トン程度のコメは生産できる。国内だけでこれを処理しようとすると、米価は暴落する。このため50年以上にわたる減反政策でコメ生産を減少させ、米価を維持してきた。
現在、JA農協と農林水産省は、主食用のコメの生産量を650万トン程度に抑制することを目標にしている。
【JA農協発展のための減反政策】
減反はJA農協発展の基礎である。
米価を高く支持したので、コストの高い零細な兼業農家が滞留した。かれらは農業所得の4倍以上に上る兼業収入(サラリーマン収入)をJAバンクに預金した。
また、農業に関心を失ったこれらの農家が農地を宅地等に転用・売却して得た膨大な利益もJAバンクに預金され、JAは預金量100兆円を超すメガバンクに発展した。
減反で米価を上げて兼業農家を維持したこととJAが銀行業と他の事業を兼業できる日本で唯一の法人であることとが、絶妙に絡み合って、JAの発展をもたらした。
「米価が下がると農家が困るのではないか」「コメ生産が維持できなくなるのではないか」という指摘がなされる。しかし、コメ生産を維持するために、コメ生産を減少させる(減反である)というのは矛盾していないか。
また、アメリカやEUは農家の所得を保護するために、かなり前から高い価格ではなく直接支払いという政府からの交付金に転換している。
よく私は「欧米では農業保護のやり方を高い価格ではなく財政からの直接支払いという方法に転換したのに、なぜ日本ではできないのですか?」という質問を受ける。農家にとっては、価格でも直接支払いでも、収入には変わらない。なぜ、日本の農政は価格に固執するのか?
それは、欧米になくて、日本にあるものがあるからである。JA農協である。
アメリカにもEUにも農家の利益を代弁する政治団体はある。
しかし、これらの団体とJA農協が決定的に違うのは、JA農協それ自体が金融業などの経済活動も行っていることである。このような組織に政治活動を行わせれば、農家の利益より自らの経済活動の利益を実現しようとする。その手段として使われたのが、高米価・減反政策である。
米価を下げても主業農家に直接支払いをすれば、主業農家だけでなくこれに農地を貸して地代収入を得る兼業農家も利益を得る。
しかし、直接支払いが交付されない農協にとっては、価格低下で販売手数料収入は減少するし、零細兼業農家が農業をやめて組合員でなくなれば、JAバンクの預金も減少する。農協にとっては良いことがないのだ。
【農林水産省は政府備蓄米の放出を拒否】
減反政策によって、コメの全農と卸売業者との取引価格(相対取引価格)は、60キログラムあたり、2021年産1万2804円から、2022年産1万3844円、2023年産1万5306円(7月は1万5626円)となり、この2年間で20%も上昇した。農林水産省としてはシナリオ通り米価を上昇させて満足しているところだろう。
去る7月19日の記者会見で坂本農林水産大臣は、昨年(2023)産米の相対取引価格について、「令和5年産米の6月の相対取引価格は、最近の中では平成24年産の同時期の1万6293円に次ぐ価格となっています」と述べ、卸売業者が全農に支払う価格が10年ぶりの高水準になっていることを認めた。
さらに、坂本大臣は、今年(2024)産の早期米(他の産地よりも早く出荷されるコメ、早場米ともいう。)の概算金(JA農協が農家に支払う仮払金)の価格について、「令和6年産の早期米の概算金の大幅上昇について、鹿児島県産コシヒカリの7月末までの概算金が、60kg当たり1万9200円など、前年産に比べ6000円高い価格で決定されていることは報道により承知しています」と述べている。
31%の価格上昇である。
それでも坂本大臣は、「私自身は、需給が引き締まっているということで、特段、これによってさまざまな対応をするというような状況にはないと思っています。」と述べているのである。
米価の上昇はJA農協と農林水産省にとって成果以外の何物でもない。コメが不足したからといって、備蓄米を放出すれば、供給が増えて米価は低下する。大阪府の吉村洋文知事の備蓄米放出という要請を大臣は拒否した。
【減反廃止はフェイクニュース】
なお、減反は廃止されたのではないかとよく質問される。結論から言うと、これは安倍晋三元首相のフェイクニュースである。
2014年農林水産省、JA農協、自民党農林族によって減反政策の見直しが行われた。国から都道府県等を通じて生産者まで通知してきたコメの生産目標数量を廃止するだけで、減反政策のコアである補助金は逆に拡充した。
この政策変更にほとんど関与しなかったのに、安倍首相は政権浮揚のため「40年間誰もできなかった減反廃止を行う」と大見栄を張った。
この時、減反を見直した自民党農林族幹部も、大臣をはじめ農林水産省の担当者も、「減反の廃止ではない」と明白に否定していた。面白いことに、2007年に安倍内閣は全く同じ見直しをして撤回していたのである。しかし、2007年当時だれも減反廃止とは言わなかった。廃止ではなかったからだ。
減反廃止が本当なら、米価は暴落するはずだ。農業界は蜂の巣をつついたような騒ぎになり、永田町はムシロバタで埋め尽くされる。もちろん、そんなことは起きなかった。
後に安倍首相は、私の論文を基に国会の予算委員会で減反廃止を否定する農林族議員との主張の違いを指摘され、「違いはない。私はわかりやすく言っただけ」と発言を撤回した。これは、NHKテレビで中継された。
【本当にコメ不足は解消されるのか】
農林水産大臣は、8月2日の記者会見で、「収穫の早い産地は、今月には新米が出回り始め、9月からは主産地の出荷も始まります。消費者の皆様方におかれましては、安心していただき、普段どおりにお米をお買い求めいただきたいと思います」と述べている。
9月になれば新米(2024産米)が供給されるので、コメ不足は解消されるという報道も見られる。
しかし、そうだろうか?
まず、需給のファクツを押さえておこう。基準年を1昨年の9月から昨年の8月までとして、これに対する生産と需要の変化を見よう。
既に述べたように、昨年の9月から今年の8月までの期間の供給主体となる作年(2023年)産のコメは減反により前年(2022年)産より9万トン少なかった。これに猛暑による精米歩留まりの減少が20万トンであったとすると、供給量は前年に対し29万トン少なくなる。消費について農林水産省は、インバウンド等で11万トン増加しているとしている。
以上から、コメの不足量は40万トンとなる(これは農林水産省が公表している民間在庫量の減少41万トンと符合する)。これを今年産の早期米等で早食いすれば、40万トンの不足は次の期(今年の9月から来年の8月まで)に持ち越されることになる。
【再来年も52万トン不足する】
では、次の期のコメの需給はどうなのだろうか?
この期間の供給の主体となる今年産の供給量もコメの需要が毎年10万トンずつ減少するという前提で減反しているとすれば、基準年に供給された2022年産(670万トン)に比べ20万トン少なくなるはずである。
しかし、根拠は明らかではないが、農林水産省は669万トンになるという見通しを公表している。農林水産省の見通しが正しいとすれば、基準年に比べ供給量は1万トンの減少となる。
インバウンドの需要が今年と同様であるとしても、基準年比では11万トン増である。つまり今年産米が農林水産省の見通し通りだったとしても、基準年より12万トンの不足(減反を予定通り行っているとすれば31万トンの不足)がある。これに今年産米を先(早)食いした40万トンの不足が加わる。
減反を考慮しなくても次の期の不足は52万トンとなる。
【猛暑の影響でさらに不足が拡大する】
さらに、今年産のコメが猛暑の影響を受けるかどうかは、これからわかる。
胴割れ米等が起きるのは穂が出てから10日間に高温にさらされていたかどうかである。今年も昨年並みの高温だった。また、台風の影響により、イネの倒伏や日照不足による不十分な登熟が起きる可能性がある。
今年も昨年と同様の被害を受けているとすれば、不足は72万トンとなる。一等米の比率は年々低下しているので、これでは済まないかもしれない。
この不足分を来年産から早食いするとすれば、その次の期に不足は持ち越される。永遠に不足が続く。
【コメ不足を解消するには「減反廃止」しかない】
減反を止めれば、この問題は解消できる。
1700万トン生産して1000万トン輸出していれば、国内の需給が増減したとしても輸出量を調整すればよいだけである。国内でコメ不足は起きない。平成のコメ騒動は冷夏が原因と言われているが、根本的な原因は減反である。
当時の潜在的な生産量1400万トンを減反で1000万トンに減らしていた。それが不作で783万トンに減少した。しかし、通常年に1400万トン生産して400万トン輸出していれば、冷夏でも1000万トンの生産・消費は可能だった。
コメの輸出が増えている。今ではカリフォルニア米との価格差はほとんどなくなり、日本米の方が安くなる時も生じている。減反を廃止すれば価格はさらに低下し、輸出は増える。国内の消費以上に生産して輸出すれば、その作物の食料自給率は100%を超える。
上記の場合、コメの自給率は243%となり、全体の食料自給率は60%以上に上がる。最も効果的な食料安全保障政策は、減反廃止によるコメの増産と輸出である。平時にはコメを輸出し、危機時には輸出に回していたコメを食べるのである。平時の輸出は、財政負担の必要がない無償の備蓄の役割を果たす。
しかし、減反は廃止できない。農林水産省が目を向けるのはJA農協であって国民ではないからだ。コメ不足を解消する最善の政策は農林水産省の廃止ではないか。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2024/09/ja_6.php
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2024/09/18 (Wed) 18:30:06
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ウソに騙されるな!【「令和の米騒動」の真実】なぜ、米不足が起きているのか?【吉野敏明】
よしりんとチョーさんの人生健康サロンch 2024/09/18
https://www.youtube.com/watch?v=omJdJcpmmB0